現行民法上,契約上の地位の移転(譲渡)に関する規定が設けられていない
契約上の地位の移転に関する規定を設けることが望ましいとしても,多様な契約類型を想定した実質的に意味のある規定を設けることは困難ではないかという指摘もある。
契約上の地位の移転(譲渡)とは,契約当事者の一方(譲渡人)が,第三者(譲受人)に対して当該契約当事者の契約上の地位を移転させることである。
契約上の地位の移転の要件
契約上の地位の移転が,譲渡人,譲受人及び契約の相手方の三者間の合意がある場合だけではなく,譲渡人及び譲受人の合意があり,これを契約の相手方が承諾した場合にも認められることについては,異論が見られない。また,契約の相手方の承諾は必ずしも常に必要ではなく,例えば,賃貸不動産の譲渡に伴う賃貸人の地位の移転については,賃借人の承諾は不要とされている。
そこで,契約上の地位の移転の要件について明文の規定を設ける際には,例外的に相手方の承諾が不要となる場合があることを示す必要があるが,この例外の要件について,多様な契約類型を想定しつつ明確に定式化することは困難であるとの指摘もあり,例えば,契約の性質上,承諾が不要な場合があることを明記するにとどめるという提案もされている。
契約上の地位の移転の要件としての承諾の要否
契約上の地位の移転の要件としては,譲渡人,譲受人及び契約の相手方の三者間の合意は必ずしも常に必要ではなく,譲渡人及び譲受人の合意に加えて,契約の相手方の承諾があればよいと考えられており,特に異論は見られない。ここで契約の相手方の承諾が必要とされるのは,契約上の地位の移転が債務引受の要素を伴うこと等を理由とするものである。
契約上の地位の移転の効果等
契約上の地位の移転により,契約当事者の一方の地位が包括的に承継されることから,当該契約に基づく債権債務のほか,解除権,取消権等の形成権も,譲受人に移転することになるが,その際に,既発生の債権債務も譲受人に移転するかという点は,明らかではない。また,譲渡人の債務についての担保は,契約上の地位の移転があった場合でも当然には譲受人に移転しないと考えられるが,その担保が順位を維持しつつ移転する方法を検討する必要があるとの指摘がある。
判例には,法定地上権が成立している土地上の建物が競売された事案において,競売により建物の所有権を取得した者は,建物の前所有者が負担していた既発生の地代債務について,債務引受をした場合でない限り,当然に承継するものではないと判断したものがある(最判平成3年10月1日)。
譲渡人の債務についての担保の移転
契約上の地位に基づき譲渡人が負担する債務のために担保が設定されていた場合には,当該契約上の地位が移転しても当該担保は当然には移転しないと考えられる。しかし,この点については,契約上の地位の移転が当事者の交替にもかかわらず契約を継続させるための制度であることから,地位の移転後の譲受人の債務のためにも,従前と同順位の担保が承継されることが望ましいという指摘がある。
対抗要件制度
ゴルフ場会員権の譲渡の事案について,民法第467条を準用し,同条所定の第三者対抗要件を具備しなければ第三者に対抗できないと判断しているが,他方,賃貸不動産の譲渡が競合した事案において,賃借人に対する対抗要件として同法第177条に基づき登記を具備していることが必要であるとしている等,契約類型によって異なる判断をしている。
判例は,契約上の地位の移転における対抗要件の要否について,契約類型によって異なる判断をしていると指摘されている。
1 ゴルフ会員権の譲渡
最判平成8年7月12日は,ゴルフ会員権が二重譲渡された事案について,ゴルフ会員権の法律関係を債権的契約関係とした上で,当該ゴルフ会員権の譲渡を第三者に対抗するには,指名債権の譲渡の場合に準じて,譲渡人が確定日付のある証書により相手方に通知し,又は,相手方が確定日付のある証書により承諾することが必要であるとした。
2 賃借権(転貸人の地位)の譲渡
最判昭和51年6月21日は,賃借権が譲渡された事案について,「本件土地の賃借権の譲渡(転貸人の地位の承継)を受けた上告人は,その譲渡人がそれを右土地の転借人である被上告人らに通知をせず,又は被上告人らが右譲渡を承諾しない以上,被上告人らに対し,その転貸人としての地位を主張し得ないとした原審の判断は,正当として是認することができる。」と判断している。この判例については,契約上の地位の移転についても民法第467条の適用を認めたものであると指摘する見解もある。
3 賃貸人の地位の移転
賃貸不動産が譲渡された場合において,当該不動産の譲受人が,賃借人に対して賃料請求権や解除権等を行使するために,対抗要件として何を具備していなければならないかという点が争われた事案において,判例は,賃借人は不動産の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者であるから,民法第177条の規定上,登記を経由しなければ,その所有権の移転について賃借人に対抗できず,したがってまた,賃貸人たる地位を主張することができないと判断しており(最判昭和49年3月19日),登記を具備している場合には,賃貸人たる地位の移転について,賃借人に通知する必要はないとしている(最判昭和33年9月18日)。
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