法律行為の無効については,法律行為の一部について無効原因がある場合の残部への影響(後記2)や法律行為が無効である場合の法律関係(後記3)が不明確であると指摘されており,また,法律行為の取消しについては,取り消すことができる法律行為の範囲を拡大した場合の取消権者の範囲(後記4)や取消権の行使期間(後記5)などについて問題が指摘されている。
(1) 法律行為に含まれる特定の条項の一部無効
法律行為に含まれる特定の条項の一部について無効原因がある場合に,当該条項の残部の効力が維持されるのか,当該条項全体が無効になるのかという問題については,現行民法上,個別に規定が設けられている例はあるが,一般的な規定は設けられていない。
無効原因がある部分以外の残部の効力が維持されることを原則とした上で,例外的に,当該条項が約款の一部となっているときや,無効原因がある部分以外の残部の効力を維持することが当該条項の性質から相当ではないと認められるときは,当該条項全体が無効になるものとすべきであるという考え方が提示されている。
民法第604条第1項後段や利息制限法第1条など個別に明文の規定が設けられている例もあるが,現行民法上一般的な規定は設けられていない。
法律行為に含まれる特定の条項の一部に無効原因がある場合でも当該条項の残部の効力は維持されることを原則とした上で,その例外として,当該条項が約款の一部となっているときには,約款使用者が作成した契約条項を相手方は事実上承諾せざるを得ず,残部の効力を維持することの弊害が大きいことから,当該条項全体が無効になることとすべきであるとの考え方が提示されている。また,無効原因がある部分以外の残部の効力が原則として維持されるのは当事者の意思を尊重したものであるから,条項の性質から残部の効力を認めることがかえって当事者の期待に反する結果を生ずる場合にも,例外的に当該条項全部を無効とすべきであるとの考え方が提示されている。
(2) 法律行為の一部無効
具体的にどのような場合に法律行為全体が無効になるのかという点では,明確な判断基準が確立しているとはいえないという問題が指摘されている。
そこで,法律行為に含まれる特定の条項が無効になる場合であっても残部の効力は維持されることを原則とした上で,一部が無効であることを認識していれば当事者が当該法律行為をしなかったであろうと合理的に考えられる場合には例外的に当該法律行為全体が無効になるという考え方が提示されている。
判例には,16歳に達しない娘の親が料理屋業を営む者との間で金銭消費貸借契約を締結し,娘を料理屋の酌婦として働かせてその報酬の半分を弁済に充てると約した場合について,酌婦として稼働させる旨の条項が公序良俗に反して無効になるだけでなく,金員受領と酌婦稼働とは密接に関連して互いに不可分の関係にあると認められるから,契約の一部である酌婦稼働条項の無効は金銭消費貸借契約を含む契約全部の無効を来すと判示したものがある(最判昭和30年10月7日)。
法律行為の全部無効か一部無効かを判断する際の考慮要素として,当事者が無効部分がなくても当該法律行為をする意思を有していたと認められるかどうか,無効部分が法律行為の重要部分かどうか,他の部分と密接な関係があるかどうか,規制の趣旨からしてその条項のみを無効とすれば足りるか,契約全体を無効とすることが要請されるか,残余部分の拘束力を認めることが当事者にとって過酷な不利益をもたらすかどうかなどの点が指摘されている。
立法提案としては,特定の条項が無効になる場合でも任意規定等により補充して法律行為の効力をできる限り維持するのが当事者の意思に合致すると考えられることから,法律行為の一部が無効であっても原則として他の部分の効力は妨げられないが,その条項が無効であるとすれば当事者は当該法律行為をしなかったであろうと合理的に考えられるときは例外的に法律行為全体が無効になるとの考え方が提示されている。
無効とされた条項に代わるルールをどのように補充するかについて,規定を設ける必要性が指摘されている。
(3) 複数の法律行為の無効
法律行為が無効になるとしても,原則として,それが他の法律行為の有効性に影響することはないと考えられるが,複数の法律行為が相互に密接な関連性を有する場合には,そのうちの一つが無効になれば他の法律行為も無効になる場合があるとの指摘がある。
密接な関連性を有する複数の法律行為の一つが無効になった場合において,当該法律行為が無効であるとすれば当事者が他の法律行為をしなかったと合理的に考えられるときは,当該他の法律行為も無効になることを明文で規定すべきであるとの考え方が提示されている。
判例においては,解除の事案であるが,同一当事者間においてリゾート・マンションの一区分の売買契約とスポーツクラブ会員権契約が締結されたが,同クラブの施設内容である屋内プール完成が遅延したことを理由として買主が売買契約及び会員権契約の解除を求めた事案において,1.当該区分の売買契約書には「スポーツクラブ会員権付き」との記載があり,2.同クラブの会則には,本件マンションの区分所有権は同クラブの会員権付きであり,これらを分離して処分することができないことが定められていたなどの事実関係の下で,「同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても,それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて,社会通念上,甲契約又は 乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には,甲契約上の債務の不履行を理由に,その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である」と判示したものがある(最判平成8年11月12日)。
厳密な要件を文言上明示することが困難であるとしても,複数の法律行為のうちの一つの無効が他の法律行為の無効をもたらし得るという法理に実定法上の根拠を提供することに重要な意味があると指摘している。
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