民法は,第560条から第572条までに,担保責任に関する規定を置いている。
権利の瑕疵には,他人の権利の売買から他人の権利が付着した目的物の売買まで(民法第560条から第567条まで)が含まれ,物の瑕疵には,瑕疵担保責任(同法第570条)が含まれるとされる。
・ 物の瑕疵に関する担保責任(民法第570条)
(1) 債務不履行の一般原則との関係(瑕疵担保責任の法的性質)
民法第570条については,その文言上,債務不履行の一般原則(同法第415条等)との関係や責任の法的性質が明確でないと指摘されている。
民法第570条について,債務不履行の一般原則との関係や責任の法的性質を踏まえつつ,その要件・効果を規定する必要があるという指摘がされている。
契約責任説を採る立場からは,立法論として,瑕疵担保責任を可及的に債務不履行の一般原則に一元化する考え方が提示されている。
民法は,売主の義務に関して,債務不履行の一般原則(同法第415条,第541条等)とは別に,売主の瑕疵担保責任(同法第570条)の規定を置いている。
(2) 「瑕疵」の意義(定義規定の要否)
民法第570条の「瑕疵」という文言については,定義規定がないため,その具体的な意味を理解しづらいという指摘がされている。
用語の問題として,「瑕疵」という言葉自体の分かりにくさを解消するとともに,主観的瑕疵概念と客観的瑕疵概念を包含するという趣旨を文言上表すため,「契約不適合」という用語に改めるべきであるという考え方も示されている。
(3) 「隠れた」という要件の要否
民法第570条の「隠れた」という文言について,現行法下の判例や学説の多くは,瑕疵についての買主の善意無過失(あるいは善意無過失を推定させる不表見の瑕疵)を意味するものと解釈している。
「隠れた」を独自の要件とする必要性はないとの批判がされており,立法論としては「隠れた」要件を削除すべきであるとの考え方が示されている。
(4) 代金減額請求権の要否
民法第570条は,買主の権利として,損害賠償請求権と解除権のみを規定し,一部他人物売買や,数量不足及び原始的一部不能の売買において認められている代金減額請求権(同法第563条第1項,第565条)を認めていない。
(5) 買主に認められる権利の相互関係の明確化
民法は,担保責任等の規定により買主に複数の権利が認められる場合における各権利の相互関係について,わずかな規定しか置いていない(同法第563条第3項,第566条第1項等)ため,買主が,どのような場合にどの権利を行使できるのかが分かりづらいという指摘がされている。
(6) 短期期間制限の見直しの要否
民法は,瑕疵担保責任に基づく権利について,買主が事実を知った時から1年以内に行使しなければならないという短期期間制限を設けている(同法第570条,第566条第3項)。この短期期間制限については,現行規定を維持するという考え方が示されている一方で,瑕疵担保責任と債務不履行の一般原則との関係や時効制度の見直しに関する議論に伴って見直しをすべきである
・権利の瑕疵に関する担保責任(民法第560条から第567条まで)
(1) 債務不履行の一般原則との関係(権利の瑕疵に関する担保責任の法的性質)
権利の瑕疵に関する担保責任について,債務不履行の一般原則との関係や責任の法的性質を踏まえつつ,その要件・効果を規定する必要があるという指摘がされている。
(2) 買主の主観的要件の要否
民法には,権利の瑕疵に関する担保責任の成立要件として買主の善意(あるいは免責事由として買主の悪意)を定めるものがある(同法第561条後段,第563条第2項・第3項,第565条,第566条第1項・第2項)。
買主が他人の権利であることを知っていた場合でも,当事者間において,売主がその権利を取得した上で買主に移転することを約束し,それを前提に代金額を決定することもあり,そのような場合にまで権利移転をすることができなかった売主を免責する理由はなく,結局,売主が責任を負うか否かは,売主が負った債務の内容によって決まる。買主の主観的要素は,この債務内容の認定で考慮されるのだから,重ねて買主の主観的要件を置く必要はないとの指摘である。
判例も,他人の権利の売買において,悪意の買主に債務不履行の一般原則による損害賠償請求を認めているところ,この判例によれば,原則として悪意の買主にも損害賠償請求が認められることになるとの指摘もある。
(3) 買主に認められる権利の相互関係の明確化
権利の瑕疵に基づく買主の権利の相互関係についても,買主が,どのような場合にどの権利を行使できるのかが分かりづらいという問題点が指摘されている。
(4) 短期期間制限の見直しの要否
民法は,権利の一部が他人に属する場合(同法第563条,第564条),数量の不足又は物の一部滅失の場合(同法第565条)及び地上権等がある場合等(同法第566条)の担保責任について,1年間という短期の期間制限を設けている。
権利の瑕疵に関する担保責任について可及的に債務不履行の一般原則に一元化させる考え方からは,これらの規定を削除し,消滅時効の一般原則を適用すれば足りるとの考え方が示されている。
・権利の瑕疵に関する担保責任(民法第561条から第567条まで)
(1) 他人の権利の売買における善意の売主の解除権(民法第562条)の要否
民法第562条は,他人の権利の売買における善意の売主を保護するため,解除権を与えている。
(2) 数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任(民法第565条)
従来,数量の不足又は物の一部滅失(民法第565条)は,権利が一部存在しない場合に当たり,権利の瑕疵に属するものと位置付けられてきたが,近時,当事者の合意や契約の趣旨・性質に照らして備えるべき状態を実現していない場合であり,物の瑕疵と捉えるべきであり,これらも「瑕疵」(同法第570条)に該当するという指摘がされており,これを踏まえて,同法第565条の規定を削除すべきであるという考え方が示されている。
(3) 地上権等がある場合等における売主の担保責任(民法第566条)
目的物に地上権等がある場合に関する民法第566条については,以下のような立法提案が示されている
1. 権利の瑕疵に関する担保責任に通ずる問題として,買主の主観的要件を不要とすべきであるという考え方(前記3(2)参照)に立った上で,民法第566条の適用範囲を明確にするため,同条の要件として,地上権等がない状態で権利移転をすべき場合に適用される旨を条文上明記すべきではないか。
2. 一部他人物売買などで認められている代金減額請求権(同法第563条第1項等)を瑕疵担保責任でも認めるべきであるという考え方(前記2(4)参照)と同様の問題意識から,民法第566条においても,代金減額請求権を認めるべきではないか。
(4) 抵当権等がある場合における売主の担保責任(民法第567条)
目的物に抵当権等がある場合に関する民法第567条については,以下のように,条文上,適用されるべき場面に過不足があるという指摘がされており,これらの指摘に従って条文を整序すべきであるという考え方が示されている
1. 抵当権等の存在を考慮することなく売買代金が決定された場合に限って適用される旨を明らかにすべきではないか。
2. 売買の目的が不動産ではなく,動産その他の財産権であった場合にも適用される旨を明らかにすべきではないか。
3. 「先取特権又は抵当権」だけでなく,仮登記担保権等の担保物権が付されていた場合にも適用される旨を明らかにすべきではないか。
4. 「所有権を失ったとき」だけでなく,買主が所有権等の権利の移転を求めることができなくなった場合にも適用される旨を明らかにすべきではないか。
・ 強制競売における担保責任(民法第568条,第570条ただし書)
民法は,強制競売において,権利の瑕疵については原則として解除権と代金減額請求権に限って担保責任を認める(同法第568条)が,物の瑕疵については担保責任を認めない(同法第570条ただし書)。
・ 売主の担保責任と同時履行(民法第571条)
民法第571条については,担保責任の法的性質を債務不履行責任とする立場から,同時履行の抗弁(同法第533条)や解除の場合の原状回復における同時履行(同法第546条)の各規定が適用されることの確認規定にすぎないとして,これを削除すべきである
・数量超過の場合の売主の権利
民法は,いわゆる数量指示売買(同法第565条)において,売主の給付すべき目的物が,当事者間の契約の趣旨に従って備えるべき数量を超過している場合の売主の権利について,特段の規定を置いていない。
当事者間の利益調整を図る準則を条文上明らかにすべきであるという考え方も示されている。
民法(債権関係)改正の方向性・検討内容を5月中旬以降に公表(今現在審議会が進行中)
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