● 有権代理
(1) 代理行為の瑕疵-原則(民法第101条第1項)
民法第101条第1項については,「代理行為における意思表示の効力が意思の不存在,詐欺,強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合」という要件を明確化するため,「意思の不存在,詐欺,強迫」が代理人の意思表示の効力に影響する場面と相手方の意思表示の効力に影響する場面とを区別して規定する。
具体的には,1代理行為における代理人のした意思表示の効力が「意思の不存在,詐欺,強迫」によって影響を受けるべき場合には,本人・代理人側の事実の有無は代理人について判断する旨を規定するとともに,2代理行為における相手方のした意思表示が心裡留保によるもの等であるためその効力が本人・代理人側の「ある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったこと」によって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は代理人について判断する旨を規定する。
(2) 代理行為の瑕疵-例外(民法第101条第2項)
ア 民法第101条第2項については,その適用範囲を拡張し,特定の法律行為の委託及び本人の指図がない場合であっても,本人が自ら知っていた事情を任意代理人に告げることができたときは,その適用がある旨の規定に改める。
イ 民法第101条第2項は,その前段で本人が自ら知っていた事情について規定した上で,後段で本人が過失によって知らなかった事情について「同様とする。」と規定しているが,この「同様とする。」の意味をどのように捉えるかについては
【甲案】 本人が善意かつ有過失である場合には,本人は代理人の善意を主張することができない旨の規定であることを条文上明確にする。
【乙案】 本人が善意かつ有過失である場合には,本人は代理人の善意を主張することはできるが,代理人の善意かつ無過失を主張することはできない旨の規定であることを条文上明確にする。
(3) 代理人の行為能力(民法第102条)
代理人は行為能力者であることを要しないと規定している民法第102条については,法定代理(特に制限行為能力者の法定代理)に適用される場面に関して
【甲案】 制限行為能力者が法定代理人に就任すること自体は可能としつつ,その代理行為の効力について,法定代理人である制限行為能力者が自己を当事者としてしたのであれば取り消すことができる限度で,本人又は民法第120条第1項の取消権者がこれを取り消すことができる旨の規定を設ける。
【乙案】 制限行為能力者が法定代理人に就任すること自体は可能としつつ,その代理権の範囲について,法定代理人である制限行為能力者が自己を当事者としてするのであれば単独ですることができる行為の範囲に制限する旨の規定を設ける。
【丙案】 代理人は行為能力者であることを要しない旨の規定(民法第102条)を維持し,甲案,乙案のような立法的措置を講じない。
(4) 代理権の範囲(民法第103条)
ア 代理人の権限に関する基本的な規定として,1任意代理については,代理権の発生原因である法律行為の解釈によって定められる行為[及び代理権授与の目的を達成するために必要な行為]をする権限を有する旨の規定を設け,2法定代理については,代理権の発生根拠である法令の解釈によって定められる行為をする権限を有する旨の規定を設ける。
イ アの規定によって代理人の代理権の範囲が定まらない場合において,権限の定めのない代理人の代理権の範囲について規定する民法第103条が任意代理にも適用されるかどうかについては
【甲案】 権限の定めのない代理権授与行為は無効であるから,民法第103条は任意代理には適用されないことを条文上明確にする。
【乙案】 権限の定めのない代理権授与行為も有効であって,民法第103条はその場合の代理権の範囲について規定する条文でもあるから,同条は任意代理にも適用されることを条文上明確にする。
(5) 任意代理人による復代理人の選任(民法第104条)
民法第104条は,任意代理人が本人の許諾なく復代理人を選任することができる場合をやむを得ない事由があるときに限定しているが,この復代理人選任のための要件を緩和すべきかどうかについては
【甲案】 代理権の発生原因である法律行為の趣旨に照らして,代理人に自ら代理行為をすることを期待するのが相当でない場合には,本人の許諾なく復代理人を選任することができる旨の規定に改める。
【乙案】 やむを得ない事由がある場合にのみ,本人の許諾なく復代理人を選任することができる旨の規定(民法第104条)を維持する。
(6) 利益相反行為(民法第108条)
ア 民法第108条は,自己契約及び双方代理を原則として禁止しているが,形式的には自己契約又は双方代理のいずれにも当たらないものの実質的には本人と代理人との利益が相反する行為をも原則として禁止すべきかどうかについては
【甲案】 本人と代理人との利益が相反する行為一般を原則として禁止する旨の規定に改める。
【乙案】 自己契約及び双方代理のみを原則として禁止する旨の規定(民法第108条)を維持する。
イ 民法第108条に違反する行為の効果については
【甲案】 民法第108条に違反する行為は無権代理行為であるとし,その旨を明らかにする規定を設ける。
【乙案】 民法第108条に違反する行為は有権代理行為であり,本人に効果帰属することを原則とした上で,本人は,利益相反の事実につき相手方や第三者が善意かつ無重過失である場合を除き,効果不帰属の主張をすることができる旨の規定を設ける。
ウ 民法第108条ただし書は,自己契約及び双方代理の禁止が例外的に及ばない行為として,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為を挙げているが,これについては,本人があらかじめ許諾した行為及び本人の利益を害さないことが明らかな行為を例外とする旨の規定に改める。
(7) 代理権の濫用
代理人が自己又は他人の利益を図るために代理権の範囲内の行為した場合(代理権の濫用)における法律関係について,明文の規定を設ける。具体的には
【甲案】 代理権濫用行為は,相手方が代理権濫用の事実につき悪意又は有過失であるときは,その法律行為が無効とされる旨の規定を設ける。
【乙案】 代理権濫用行為は,相手方や第三者が代理権濫用の事実につき悪意又は重過失であるときは,本人は相手方や第三者に対して効果不帰属の主張をすることができる旨の規定を設ける。